数年間、広告運用やサイト制作を外注してきた。それなりに成果も出ていた。ところが担当を変えようとしたとき、手元に何も残っていないことに気づく——という話をよく聞きます。
過去のデータが取り出せない。何をどう判断していたのかが分からない。アカウントの管理権限がない。結果として、次の委託先はまたゼロから説明を受けるところから始まります。
これは委託先の怠慢とは限りません。残らないのは、残す仕組みを決めていなかったからです。そして残さないほうが継続受注に有利という構造もあります。
この記事では、何が残らないのか、なぜ残らないのか、そして残すために契約と進め方で決めておくことを整理します。
「残らないもの」は3種類ある
外注で失われるものは、性質の違う3つに分けられます。分けて考えないと対策も打てません。
| 種類 | 具体例 | 失うと何が起きるか |
|---|---|---|
| 名義・権限 | 広告アカウント、GA4、GTM、ドメイン、サーバー | 解約後にアクセスできない。作り直しになる |
| データ | 過去の実績、検証した施策の記録 | 比較の基準を失う。同じ失敗を繰り返す |
| 判断の基準 | なぜその予算配分か、なぜその施策をやめたか | 引き継いだ人が理由を再現できない |
このうち1つ目は契約時に決まります。2つ目は設定で決まります。3つ目だけが、進め方の問題です。
名義は、契約時にしか決められない
もっとも取り返しがつかないのが名義です。関係が良好なうちに確認しておくしかありません。
広告アカウント
代理店名義のアカウントで運用されていると、解約時に運用履歴(自動入札の学習を含む)を持ち出せません。ただし移管そのものは可能で、Google広告にはオーナー権限を譲渡する公式手順が用意されています。
「作り直しになる」と説明されることがありますが、アカウントの構成次第です。詳しくはリスティング広告代理店の乗り換えで一次情報を確認しました。
ドメインと著作権
サイト制作を外注した場合、ドメインが制作会社名義だと解約後に同じURLが使えません。著作権が制作会社に残る契約なら、データの引き渡しを断られることもあります。
サーバーとドメインは自社で契約・所有しておくのが確実です。契約書での確認箇所は名古屋のホームページ制作会社の選び方にまとめました。
計測(ここが見落とされやすい)
広告とドメインは意識されますが、アクセス解析の管理権限は抜けがちです。
GA4のアカウントが委託先のGoogleアカウント配下にあり、自社側に管理者権限がない状態で関係が切れると、自社サイトの解析データに自社がアクセスできなくなります。
このとき復旧は簡単ではありません。Googleの公式ヘルプにはこう書かれています。
Google アナリティクス アカウントのオーナーか管理者の方は、Google アナリティクスにデータを送信しているサイトやアプリの所有権を証明する必要があります。
具体的には、指定された文字列を記載した analytics.txt をトップレベルドメインに設置してサイトの所有権を証明し、フォームから申請する手続きになります。リンクされたGoogle広告アカウントがある場合は、そちらの所有権証明も求められます。
自社のサイトのデータなのに、自社であることを証明する手続きが必要になるということです。GTMのコンテナ、Search Consoleの所有権も同じ構図なので、あわせて確認する価値があります。
データは、設定していないと消える
名義を押さえていても、データそのものが残っているとは限りません。
GA4のイベントデータには保持期間の設定があり、標準プロパティで選べるのは**「2 か月、14 か月」**の2つだけです(データの保持)。同ヘルプには次のようにあります。
保持期間が終了すると、月単位で自動的に削除されます
ただし影響範囲には注意が必要です。
データ保持の設定は、データ探索とファネルのレポートにのみ影響します
つまり標準の集計レポートは残りますが、掘り下げて分析する探索レポートは、設定した期間より前を遡れません。2か月のままなら、去年の同じ時期と比べることができない状態です。
3年外注していても、詳細に分析できる過去は最大14か月分しかない。これは委託先の問題ではなく設定の問題なので、いま確認して延ばしておけば済みます。逆に言えば、誰も確認していなければ既定のままです。
重要な数字は、ツールの外にも残しておくのが確実です。月次の実績と、そのとき何を変えたかを1枚のシートに記録しておくだけでも、比較の基準は残ります。
判断の基準は、聞かなければ残らない
3つ目が一番やっかいです。名義とデータは確認すれば分かりますが、判断は放っておくと残りません。
外注先の頭の中には、こういう情報が蓄積されています。
- なぜこのキーワードに予算を寄せているのか
- 過去に試して効かなかった施策は何か。なぜ効かなかったと考えているか
- この数字が下がったとき、まず何を疑うか
- 季節や商戦期をどう織り込んでいるか
これらはレポートには載りません。レポートに載るのは結果で、判断の理由ではないからです。そして説明を求めなければ、言語化されないまま外注先に留まります。
残さないほうが、受注は続く
ここは正直に書いておきます。判断の基準を発注側に渡すと、発注側は自分で判断できるようになり、委託の必要性が下がります。残さないほうが継続受注に有利という構造があります。
意図的に隠しているという話ではなく、聞かれないから説明しない、説明する時間は工数だから省く、という自然な力学です。だからこそ、発注側から要求しないと残りません。
要求の仕方は難しくありません。レポートに「今月やったこと」だけでなく「なぜそう判断したか」と「次に何を見て判断するか」を書いてもらう。それだけで、判断の基準は文書として蓄積されていきます。
レポートに何を求めるべきかは広告運用レポートの見方でも扱いました。
「教育もできます」で残るもの、残らないもの
社内への教育を支援に含める会社もあります。ただし教育で残るものには差があります。
- 残りやすいもの — 操作手順、レポートの作り方、チェックの頻度といった手順化できるもの
- 残りにくいもの — 状況に応じた判断。「この場合はこうする」という条件分岐の部分
手順は研修やマニュアルで移せますが、判断は実際のケースに一緒に当たらないと移りません。教育を依頼するなら、座学ではなく自社の実データを題材にしたほうが残ります。
なお、どこまで内製化するかは費用対効果の問題でもあります。実際の損益分岐は広告運用の内製化は月いくらから割に合うかで計算しました。
契約前と運用中に決めておくこと
まとめると、確認すべきは次の項目です。すでに委託中でも、いま確認して直せるものがあります。
契約前に決めること
- 広告アカウント、GA4、GTM、Search Console、ドメイン、サーバーの名義はどちらか
- 解約時の移管に協力する義務が契約に書かれているか
- 制作物の著作権の帰属
いま確認できること
- GA4のデータ保持期間が2か月のままになっていないか
- 自社の担当者に管理者権限が付いているか(委託先だけになっていないか)
- レポートに判断の理由が書かれているか
まとめ
外注して何も残らなかったという状態は、たいてい次のどれかです。
- 名義を押さえていなかった — 契約時にしか決められない。移管の可否と協力義務を先に確認する
- データの設定を確認していなかった — GA4は既定のままだと探索レポートを遡れない。いま延ばせる
- 判断の理由を聞いていなかった — 要求しなければ言語化されない。レポートに書いてもらう
いずれも、良い外注先を選べば自動的に解決するものではありません。発注側が何を残したいかを決めて、要求するかどうかで決まります。
いま委託中の状態で、何が自社に残っていて何が残っていないかの棚卸しからご相談いただけます。名義と計測設定の確認だけでも構いません。名古屋・愛知の広告代理店選びでは支援範囲と費用の考え方を公開しています。初回相談は無料です。お問い合わせはこちら
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