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広告運用

広告運用の内製化は月いくらから割に合うか|削減できる手数料と、かかる人件費

広告運用の内製化(インハウス化)を解説する記事は、ほぼ例外なく削減できる手数料の額を示します。「月500万円の広告費なら年間1,200万円の手数料」「月300万円なら年720万円」といった具合です。

一方で、内製化にかかる人件費を金額で書いた記事はほとんどありません。削減額だけが提示され、その裏側にあるコストは「専門知識が必要」「属人化のリスク」といった定性的な表現で処理されます。

これでは判断できません。この記事では、月の広告費が10〜30万円規模の企業を想定して、削減額と人件費の両方を計算します。

内製化を勧める記事は、内製化を売っている

先に前提を共有しておきます。「広告運用 内製化」で上位に出てくる記事の書き手は、次のいずれかです。

  • 内製化の支援・伴走サービスを提供する会社
  • 広告運用ツールやダッシュボードのベンダー
  • 内製化支援をメニューに持つ広告代理店

つまり内製化が増えると売上が増える立場です。この構造上、「やめておいたほうがいい」という結論は書けません。実際、確認した範囲では内製化に向かない条件を明示した記事は一本もありませんでした。

もうひとつ、事例の規模にも注意が必要です。よく引かれる成功事例は銀行やカード会社といった大企業のもので、専任チームを組んで取り組んだ結果です。月10〜30万円の広告費で参照できる前提ではありません。

この記事も広告運用を請け負う会社が書いているので、同じ注意が必要です。外注を勧める側にも同じバイアスがあります。 そのため以下は、できるだけ計算過程を開示して書きます。

削減できる金額

運用代行の手数料は、各社が公表している水準を見るかぎり広告費の20%前後で概ね一致しています。ただし少額予算では、これとは別に最低手数料が効いてきます。

月額広告費が50万円以下の場合は最低手数料(月5〜10万円)が設定され、実質30%以上になるケースもあります

——Delight Solutions

そこで、契約に最低手数料があるかないかで分けて計算します。ここでは最低手数料を月5万円としました。

月の広告費 手数料20%のみの契約 最低手数料5万円がある契約
10万円 2万円 5万円(実質50%)
20万円 4万円 5万円(実質25%)
30万円 6万円 6万円(20%)

内製化すれば、この額がそのまま浮きます。最低手数料の仕組みについてはリスティング広告の手数料「20%」は何に対する20%かで詳しく整理しました。

かかる工数と人件費

次に、内製化した場合に発生する作業量です。実数を公開している数少ない例として、アドゲートが業務ごとの時間を示しています。

  • 配信状況のチェックと予算管理:毎日20分程度
  • 新しい広告の作成・差し替え:週1〜2回・30〜90分
  • LPや導線の改善:不定期

これを月間に換算します。

  • 日次チェック:20分 × 22営業日 = 約7.3時間
  • 広告の差し替え:60分 × 週1.5回 × 4.3週 = 約6.5時間
  • 合計:約14時間/月(LP改善は不定期のため未算入)

次に単価です。Shirofune とキャスターの共同調査によると、Web広告運用人材の平均年収は約623万円、ジュニアクラスで約520万円とされています。控えめにジュニアクラスで計算します。

  • 520万円 × 1.3(社会保険料等の事業主負担を含む)÷ 年間1,900時間 = 時給 約3,560円
  • 14時間 × 3,560円 = 月 約5万円

この月5万円という数字は当社による試算です。 工数の出典と年収の出典は上記のとおりですが、掛け合わせた結果は各社の記事にあるものではありません。前提が変われば当然変わります。

なお Shirofune は広告運用の自動化ツールを提供する会社で、「採用は難しく高い」という結論が自社に有利に働く立場にあります。この点は割り引いて読む必要があります。

差し引きどうなるか

先ほどの2つを並べます。人件費は月5万円で固定です。

月の広告費 手数料20%のみ 最低手数料5万円あり
10万円 2万円 − 5万円 = −3万円 5万円 − 5万円 = ±0
20万円 4万円 − 5万円 = −1万円 5万円 − 5万円 = ±0
30万円 6万円 − 5万円 = +1万円 6万円 − 5万円 = +1万円

結論ははっきりしています。

手数料が素の20%だけなら、月10〜20万円の規模で内製化しても金銭的な得はありません。 削減額を人件費が食い切ります。月30万円でようやく月1万円の差で、これは学習にかかる時間を考えれば誤差の範囲です。

逆に、いま最低手数料を払っているなら話が変わります。 月10万円の広告費に最低手数料5万円は実質50%であり、この負担を外せる意味は大きい。金銭面では均衡ですが、同じ支出で自社に知見が残ります。

つまり内製化すべきかどうかは、広告費の規模だけでは決まりません。まず見るべきは、いまの契約に最低手数料があるかどうかです。見積書や契約書の手数料条項を確認してください。

ここで注意点がひとつあります。内製化の判断を「浮いた手数料を広告費に回せる」という理由だけで進めると、この計算が抜け落ちます。人件費は請求書に載らないため見えにくいだけで、消えるわけではありません。

「内製化か、代理店か」ではない

もうひとつ、上位記事が揃って見落としている選択肢があります。フリーランスへの委託です。

委託先 月額の目安
フリーランス 5〜20万円
中小・専業の代理店 10〜30万円
大手総合代理店 30〜100万円以上

(出典:Delight Solutions

内製化を扱う記事はほぼすべて「内製化 vs 代理店」の二択で書かれていますが、月10〜30万円の規模なら、現実的な比較対象は代理店ではなくフリーランスや小規模事業者です。ここを候補に入れずに内製化を決めるのは早計です。

なお、いま代理店に委託していて別の代理店への切り替えも検討している場合は、アカウントを引き継げるかどうかが先に効いてきます。移管できずに作り直しになると、内製化するにせよ乗り換えるにせよ、学習データをゼロから積み直すことになります。詳しくはリスティング広告代理店の乗り換えにまとめました。

部分的内製化を、業務の分解で考える

「全部を一度に内製化せず、段階的に」「ハイブリッドが現実的」という記述は多くの記事にあります。ただしどの業務を出して、どれを自社に残すのかという分解を示した記事は見当たりませんでした。言葉だけでは実行できません。

月10〜30万円の規模であれば、次の切り分けが現実的です。

業務 頻度 担当 理由
アカウント初期設計(構造・キーワード) 一度きり 外注 ここでの失敗が後の全期間に効く
コンバージョン計測の設置と検証 一度きり 外注 誤計測に気づけないと判断が全部狂う
日次の配信・予算チェック 毎日20分 自社 商材を知っている側が早い
広告文の作成・差し替え 週1〜2回 自社 現場の言葉が使える
除外キーワードの追加 週次 自社 検索語句を見れば判断できる
月次のアカウントレビュー 月1回 外注 第三者の目が入る点に価値がある
LP・導線の改善 不定期 都度判断 制作費が別途かかる

要点は、一度きりの作業と、繰り返しの作業を分けることです。初期設計と計測の設置は専門性が要るうえに一度しか発生しません。ここをスポットで発注し、日次の運用を自社に残せば、継続手数料は発生しません。

この形なら、前掲の月14時間のうちLP改善を除いた大半を自社で担いつつ、初期の失敗リスクを外部で吸収できます。

内製化が成立しない条件

金額の計算とは別に、次に当てはまる場合は内製化を見送るべきです。

1. 日次20分を確保できる人がいない

「社長が兼任」という体制は珍しくありませんが、実態として週1回しか見られないなら、配信の異常に気づくのが最大7日遅れます。少額予算では、これだけで月の成果が消えます。

2. 月間のコンバージョンが数件しかない

判断材料が溜まりません。この規模では運用の巧拙より、コンバージョン地点の設計や予算規模の見直しが先です。この論点は月10万円のリスティング広告は代理店に頼むべきかでも扱いました。

3. ランディングページを自社で触れない

広告文だけを変えても改善幅には限界があります。LP制作を外注する場合の相場は30〜50万円程度とされており、月10万円の広告費なら3〜5ヶ月分に相当します。この費用を内製化のコスト計算に含めていないと、想定が崩れます。

4. 担当者が1人しかいない

内製化のリスクとして属人化がよく挙げられますが、その対策として提示される「複数人での運用体制」は、この規模の企業では実行できません。1人しかいない前提で、その人が辞めたらどうするかを先に決めておく必要があります。少なくともアカウントの管理者権限を経営者側にも残しておくべきです。

まとめ

月10〜30万円の広告費で内製化が金銭的に見合うかは、いまの契約に最低手数料があるかどうかで決まります。素の20%契約なら削減額は月2〜6万円で、内製化に必要な月14時間の人件費(試算で約5万円)とほぼ相殺されます。最低手数料を払っているなら、削減額が上振れするぶん判断は変わります。

そして比較対象は代理店だけではありません。フリーランスという選択肢を含めて、3つを並べて考えるべきです。

現実的な着地は、初期設計と計測の設置だけをスポットで外注し、日次の運用を自社に残す形です。継続手数料をなくしつつ、最初の失敗を避けられます。「全部を自社で」は、この規模では目標にする必要がありません。


私たちは愛知県春日井市を拠点に、名古屋市・愛知県の企業を中心に支援していますが、オンラインでの支援が中心のため地域は問いません。初期設計だけ、計測の検証だけといった単発でのご相談も承っています。名古屋のWEBマーケティング支援で支援範囲と費用の考え方を公開しています。お問い合わせはこちら