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マーケティング戦略

顧客インタビューの質問例|購入理由と選定基準を誘導せずに聞く方法

筆者: 古田 宏典
顧客インタビューの質問例|購入理由と選定基準を誘導せずに聞く方法

顧客インタビューで「商品を選んだ理由は何ですか」と聞くと、「品質がよかった」「担当者が丁寧だった」といった答えが返ってくることがあります。しかし、その言葉だけでは、顧客が何と比較し、どの条件が決定を分けたのかは分かりません。

反対に、「導入支援が決め手でしたか」と聞けば、自社が期待する答えへ誘導してしまいます。回答が得られても、優先する顧客や提供価値を決める根拠には使えません。

顧客インタビューの目的は、顧客の本音を言い当てることではありません。戦略上の仮説について、実際に起きた出来事と顧客が取った行動を聞き、可能な範囲で記録と照合して、次の判断を変えられる状態にすることです。

第5記事「3C分析のやり方」では、顧客・競合・自社を比較して戦略仮説を作り、確認済みの事実と未確認の仮説を分けました。本記事では、その仮説について、誰に、何を、どの順番で聞くかを整理します。

質問を作る前に、変える判断を決める

最初に質問一覧を作ると、顧客の業務、悩み、満足度、要望を広く聞くだけになりがちです。話は増えても、何を判断するインタビューだったのかが分かりません。

先に、次の3点を一行でつなぎます。

  1. 現在の仮説 — 顧客、課題、代替手段、選定基準について何を想定しているか
  2. 未確認の点 — 何が顧客本人や案件の事実で確認できていないか
  3. 変える判断 — 結果によって、優先顧客、提供価値、商品、価格などの何を変えるか

たとえば、法人向け設備保守会社が次の仮説を持っているとします。

複数拠点を持ち、保全人員が不足する企業は、設備停止を減らすため、拠点をまたいだ予防保全の一元管理を重視する。

この場合、確認したいのは「保全に困っていますか」ではありません。一元管理が実際の選定基準だったか、それとも価格、緊急時の対応速度、社内調整のしやすさなど、別の条件が決定を分けたのかです。結果によって、優先顧客やサイトで伝える価値を見直します。

GOV.UKのユーザー調査ガイドでも、調査前にチームの根拠のない想定を調査上の問いへ変え、優先順位を付けることが勧められています(Plan user research for your service)。顧客へ実際に投げる質問と、社内で答えを得たい調査上の問いは分けます。

誰に聞くかは、顧客属性だけで決めない

対象者は「製造業の担当者」のような属性だけでは選べません。検証する仮説に関係する経験を持ち、購入工程のどの部分を知っているかで選びます。

受注・失注・継続・解約を目的に合わせて選ぶ

満足している既存顧客だけへ聞くと、自社を選んだ理由に偏ります。判断したい内容によって対象案件を変えます。

対象案件 主に確認できること 注意点
受注 問題認識、比較した候補、選定理由 営業担当者への好意から回答が肯定的になりやすい
失注 他社、内製、見送りを選んだ理由 営業記録だけでなく、可能なら顧客本人へ確認する
継続 導入後に実現した価値、利用を続ける条件 購入時の記憶が曖昧なら直近の更新判断も聞く
解約 期待と実態の差、利用を止めた出来事 不満の一覧ではなく、解約を決めた経緯を確認する

「一元管理が選定基準になるか」を確かめるなら、受注顧客だけでなく、拠点ごとの運用を続けた企業や、全国対応の競合を選んだ企業にも聞く必要があります。

BtoBでは、利用者・選定者・決裁者を分ける

BtoBの購入は、一人で完結しないことがあります。

役割 知っている可能性が高いこと
利用者 日常業務の問題、現在の代替手段、導入後の変化
情報収集者 候補を探した場所、最初に候補から外した条件
比較・選定者 比較項目、提案内容、候補ごとの差
決裁者 投資の理由、採算、リスク、最終承認の条件

利用者に「最終的な決裁理由」を聞いても、推測しか得られない場合があります。決裁者だけに聞けば、現場で何が起きていたかを把握していないことがあります。

最初に「今回の検討で、あなたは何を担当しましたか」「ほかに誰が、どの段階へ関わりましたか」と確認します。一人の回答で購入工程全体を説明しようとせず、必要なら役割の異なる人へ分けて聞きます。

直近の一件を、時系列で聞く

抽象的な意見より、最近起きた具体的な一件を聞きます。「普段はどうしますか」ではなく、「直近で見直した案件について、最初に何が起きましたか」から始めます。

基本の順番は次のとおりです。

  1. 対象者の役割
  2. 問題を認識した出来事
  3. それまで使っていた代替手段
  4. 情報を探し始めたきっかけ
  5. 実際に比較した選択肢
  6. 比較時に確認した条件
  7. 社内の関係者と決裁
  8. 購入、他社選定、内製、見送りを決めた理由
  9. 導入後または決定後に起きた変化

時系列で聞くと、「価格が重要」という評価だけでなく、いつ価格が問題になり、誰が、何と比較して、判断を変えたのかを確認できます。

顧客インタビューの質問例

質問例はそのまま全部使うものではありません。検証する仮説に必要な項目を選び、回答に応じて深掘りします。

確認すること 質問例 避ける聞き方
対象者の役割 その検討で、あなたは何を担当しましたか 導入を決めた方ですよね
問題を認識した場面 直近で見直しが必要だと感じた出来事を教えてください 以前から困っていましたか
放置した影響 その出来事で、業務や売上に何が起きましたか 大きな損失になりますよね
従来の代替手段 見直す前は、どのように対応していましたか 他社サービスでは不十分でしたか
検討のきっかけ 実際に情報を探し始めたのは、いつ、何があった後ですか この機能があれば検討しますか
比較した選択肢 他社、内製、見送りを含め、実際に何と比較しましたか 競合Aと比較しましたか
選定基準 候補を比べるとき、何を確認しましたか 価格と品質を重視しましたか
候補から外した理由 最初に候補から外したものと、その理由を教えてください 機能不足で外しましたか
関係者と決裁 誰が何を確認し、最終的に誰が決めましたか あなたが決裁者ですか
決定理由 最後に候補を分けた出来事や条件は何でしたか 当社の対応力が決め手でしたか
導入後の変化 導入前と比べて、実際に何が変わりましたか 満足していますか

「品質」「安心」「使いやすさ」のような評価語が出たら、その言葉をそのまま選定基準にしません。

  • そう感じた具体的な出来事は何でしたか
  • ほかの候補ではどうでしたか
  • その違いを、検討中のどの資料や対応で確認しましたか
  • その条件がなければ、判断は変わりましたか

と掘り下げ、観察できる行動や比較条件へ戻します。

誘導しないために避ける3つの聞き方

自社の仮説を質問に入れる

「拠点を一元管理できることが重要でしたか」と聞けば、相手は提示された評価軸の中で答えます。

先に「候補を比較するとき、何を確認しましたか」と聞きます。一元管理が自発的に出なかった場合も、すぐに仮説を否定はしません。比較の終盤で確認したのか、現場と決裁者のどちらが重視したのかを追加で聞きます。

未来の意向を事実として扱う

「この機能があれば買いますか」という回答は、実際の購入を保証しません。将来の希望を聞く代わりに、過去に似た問題へ費用、時間、人員を使ったかを確認します。

  • これまで、その問題へどのように対応しましたか
  • 直近では、誰が何時間ほど使いましたか
  • 解決のために予算を取ろうとしたことはありますか
  • 実行しなかった場合、何が障害になりましたか

課題があるという発言と、解決のために行動するほど強い課題であることは別です。

「なぜ」だけを繰り返す

「なぜ選びましたか」は必要な質問ですが、相手に理由の要約を求めます。記憶を整理する過程で、後からもっともらしい説明になることもあります。

「最初に何が起きましたか」「次に何をしましたか」「その時点で候補はいくつありましたか」と出来事をたどった後で、最後に本人がどう評価しているかを聞きます。

GOV.UKのインタビュー手引きでも、開かれた中立的な質問を使い、一般論や「本来どうあるべきか」ではなく、実際の話と具体例へ焦点を当てるとされています(Using in-depth interviews)。

30〜45分で実施する流れ

小規模な戦略検証なら、次の進行から始められます。

時間 内容
3分 目的、利用範囲、録音の有無を説明し、同意を得る
5分 対象者の業務と購入工程での役割を確認する
20〜25分 直近の一件を問題認識から決定まで時系列で聞く
5〜10分 選定基準、決定理由、導入後の変化を深掘りする
2分 認識違いがないか要約し、追加事項を確認する

録音する場合は、開始前に目的、閲覧者、保管方法、保存期間を伝えて許可を得ます。録音があっても、インタビュー中は判断に関係する出来事、固有の言葉、追加で確認する点を記録します。分析に不要な個人名や企業名は共有資料から外し、決めた期限を過ぎた録音は削除します。

質問ガイドは、全項目を読み上げる台本ではありません。GOV.UKの手引きでも、質問と構成を事前に試しつつ、実施時にはガイドへ固執せず、重要な話を掘り下げることが勧められています。聞き手と記録者を分けられるなら、聞き手は会話と深掘りに集中できます。

回答を、出来事・事実・評価・解釈に分ける

発言をそのまま「顧客ニーズ」や「確認済みの事実」として記録すると、回答者の記憶、記録で確認できた事実、社内の解釈が混ざります。

区分 設備保守会社の架空例 扱い方
回答者が説明した出来事 3拠点で故障記録の形式が異なり、月次集計に2日かかったと担当者が説明した 誰が、どの案件について話したかを残す
記録で確認した事実 拠点ごとに異なる3種類の記録様式と、2日間の集計作業記録がある 資料やデータなど、確認した根拠を残す
本人の評価 拠点ごとの確認が面倒で、報告が遅いと感じていた 誰がどう評価したかを残す
社内の解釈 一元管理を訴求すれば受注率が上がる 追加確認が必要な仮説として扱う

一人の発言から確認できるのは、その人がその案件をどう経験し、説明したかです。出来事そのものが起きたか、期間や金額が正確かは、可能なら商談記録、作業記録、利用データなどと照合します。また、一件の回答は市場全体の傾向を示しません。同じ顧客層の受注・失注案件で繰り返し現れるかを確認します。

インタビュー直後に、その案件から得た内容を次の3つへ分けます。

  • 支持材料 — 仮説と一致する具体的な行動や比較の情報が得られた
  • 反証材料 — 実際の行動や決定条件が仮説と異なる情報が得られた
  • 未確認 — 対象者がその工程に関与していない、記憶がないなどで判断できない

一件の支持材料だけで仮説を確定せず、一件の反証材料だけで顧客層全体の仮説を棄却しません。ただし、反証材料を例外として捨てないことが重要です。対象者の役割が違うのか、顧客層の分け方が粗いのか、社内の仮説そのものを見直す必要があるのかを、次の案件で確認します。

最初から「正しい人数」を固定する必要はありません。まず同じ顧客層の受注と失注を含む複数案件へ聞き、回答が共通する点と分かれる点を整理します。新しい判断材料が出たら質問や対象者を調整し、同じ内容が繰り返されても重要な判断が変わらなくなった段階で、別の顧客層や次の調査へ進みます。割合や市場規模を判断したい場合は、インタビューだけで結論を出さず、案件データやアンケートなど別の方法で確認します。

顧客インタビュー設計・記録シート

インタビューは、次の形式で戦略判断とつなげます。

項目 記入内容
変えたい判断 優先顧客、提供価値、商品、価格など、結果を使う判断
検証する仮説 顧客、課題、代替手段、選定基準についての現在の想定
対象案件 受注、失注、継続、解約のどれかと、選定理由
対象者の役割 利用、情報収集、比較・選定、決裁のどこへ関与したか
回答者が説明した出来事 いつ、誰が、何を行い、何が起きたと説明したか
記録で確認した事実 商談記録、作業記録、利用データなどで何を確認できたか
本人の評価 その出来事や選択肢をどう捉えたか
社内の解釈 発言から考えた意味。事実とは別に記録する
仮説との関係 支持材料、反証材料、未確認
更新する内容 優先顧客、提供価値、競合比較の何を変えるか
次の確認 誰に何を確認し、いつ誰が判断するか

設備保守会社の例なら、次のようになります。

項目 架空の記入例
変えたい判断 複数拠点を持つ企業を優先し、一元管理を提供価値の中心にするか
検証する仮説 保全人員が不足する企業は、拠点をまたいだ一元管理を選定基準にする
対象者 競合へ失注した3拠点企業の情報収集・比較担当者
回答者が説明した出来事 一元管理は比較表に入っていたが、地域外拠点の緊急対応条件で候補から外したと説明した
記録で確認した事実 当時の比較表に、一元管理と緊急対応地域の項目が記載されていた
本人の評価 管理のしやすさより、停止時に対応できないリスクを重く見た
仮説との関係 一元管理だけを中心価値とする仮説への反証材料。対応範囲との組み合わせは未確認
更新 「複数拠点」だけでまとめず、拠点地域と停止損失で顧客層を分け直す
次の確認 受注顧客と別の失注顧客へ、緊急対応と一元管理の比較過程を確認する

一件の回答だけで提供価値を確定するのではなく、戦略仮説を具体化し、次に誰へ何を聞くかを更新します。

まとめ

顧客インタビューでは、質問数より、何の判断に使うかが重要です。

  • 質問を作る前に、仮説、未確認の点、変える判断を決める
  • 満足している既存顧客だけでなく、受注、失注、継続、解約から対象案件を選ぶ
  • BtoBでは、利用者、情報収集者、選定者、決裁者を分ける
  • 抽象的な意見や未来の希望ではなく、直近の具体的な一件を時系列で聞く
  • 自社の仮説を質問文へ入れず、比較した選択肢と実際の決定条件を確認する
  • 回答者が説明した出来事、記録で確認した事実、本人の評価、社内の解釈を分ける
  • 一件の回答を仮説全体の結論にせず、支持材料、反証材料、未確認へ整理する
  • 必要に応じて複数案件、商談記録、数値データを合わせ、優先顧客と提供価値を更新する

顧客の発言を集めることが目的ではありません。得られた情報と、記録で確認した事実によって、誰を優先し、何を選ばれる理由にするかを見直せて初めて、インタビューが戦略に使われます。

次の記事: マーケティングの競合分析

顧客インタビューで、顧客が実際に比較した選択肢と選定基準を確認したら、次は競合、代替手段、内製、現状維持がその基準をどう満たしているかを調べます。第7記事では、競合サイトの機能や会社概要を並べるだけで終わらず、顧客と同じ比較軸で競合を確認する方法を整理します。


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