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マーケティング戦略

マーケティング課題の整理方法|売上を分解して、直す場所を決める

筆者: 古田 宏典
マーケティング課題の整理方法|売上を分解して、直す場所を決める

売上が伸びないとき、会議にはすぐ施策の名前が出てきます。

「広告を増やそう」「SEOに取り組もう」「サイトをリニューアルしよう」。どれも選択肢にはなりますが、この段階ではまだ、何を直すべきかが分かっていません。施策を先に決めると、その施策で解決できる課題だけを探すことになります。

必要なのは施策の比較ではなく、売上が生まれるまでのどこで、目標と実績に差が出ているかを特定することです。

この記事では、売上を分解してマーケティングの課題を整理し、次に確認することを一つに絞る手順を解説します。

第1記事「中小企業のマーケティング戦略の立て方」では戦略を作る全体の順番を、第2記事「事業戦略とマーケティング戦略の違い」では事業の前提と判断者を整理しました。ここでは、その前提を受けて現在の課題を具体的に特定します。

「売上が伸びない」は課題ではなく、起きていること

「問題」と「課題」の定義は会社や文献によって異なります。本記事では、議論が混ざらないよう、次のように呼び分けます。

項目 意味
現象 実際に起きていること 売上が目標を20%下回っている
課題 目標達成のために変える必要がある箇所 商談数が不足している
原因仮説 なぜ差が生じているかの仮説 問い合わせ後の対応が遅い
確認方法 仮説が正しいか確かめる方法 初回連絡までの時間と商談化率を比較する
打ち手 確認後に実行する変更 問い合わせ当日の対応ルールを作る

「売上が伸びない」は現象です。「広告が弱い」は原因仮説に見えますが、実際には打ち手の方向まで決めています。

広告を増やす前に、流入が不足しているのか、問い合わせ率が低いのか、商談にならないのか、受注率が低いのかを分ける必要があります。売上を構成する数字まで降りると、初めて課題を特定できます。

売上を分解すると、直す場所が見える

売上の基本的な分解は次のとおりです。

売上 = 顧客数 × 顧客単価

継続購入や月額契約がある事業なら、顧客数を新規顧客と既存顧客に分け、さらに継続期間や購入頻度を加えます。

売上 = 新規顧客の売上 + 既存顧客の売上

この時点で、新規獲得の問題なのか、既存顧客の継続や単価の問題なのかを切り分けられます。既存顧客の解約が増えているのに、新規広告だけを増やしても、減った売上を高い費用で埋め続けることになります。

この記事では、新規顧客の獲得に課題がある場合を中心に進めます。

BtoB事業は、問い合わせから受注まで分ける

BtoBの新規売上は、たとえば次のように分解できます。

新規売上 = リード数 × 商談化率 × 受注率 × 受注単価

ここでいうリードは、問い合わせや資料請求など、見込み顧客を個別に認識できる状態を指します。

たとえば月の実績が次の状態だったとします。

指標 目標 実績 達成率
リード数 40件 24件 60%
商談化率 50% 50% 100%
受注率 25% 25% 100%
受注単価 100万円 100万円 100%

この前提では、目標売上は 40件 × 50% × 25% × 100万円 = 500万円、実績売上は 24件 × 50% × 25% × 100万円 = 300万円 です。リード数の40%不足が、そのまま 売上の40%不足につながっています。

この場合、最初に見るべきはリード数です。営業資料を作り直す、提案研修を行う、値下げするといった施策は、いま不足している数字には直接効きません。

逆にリード数が目標どおりで、商談化率だけが低いなら、集客を増やす前に問い合わせの質と営業対応を確認します。

リード不足を、流入とコンバージョン率へ分ける

リード数が不足していると分かっても、まだ広告を増やすとは決まりません。Webサイトからリードを獲得しているなら、さらに分解できます。

Web経由のリード数 = 対象ページへの流入数 × コンバージョン率

月2,000セッションで問い合わせ率が0.5%なら、問い合わせは10件です。同じ10件でも、流入が少ない場合と、十分な流入があるのに問い合わせ率が低い場合では打ち手が変わります。

状態 先に確認すること 主な打ち手の方向
流入が少ない 検索需要、順位、広告配信量、流入経路 SEO、広告、紹介、外部発信
流入はあるがCVRが低い 流入と訴求の一致、判断材料、導線、フォーム サイト・LP改善
問い合わせはあるが商談にならない 対象外の問い合わせ、初動、確認項目 ターゲット・訴求・営業対応
商談はあるが受注しない 失注理由、競合、価格、提案、決裁条件 提供価値・提案・商品設計

流入とCVRのどちらに差があるかを見ずに「サイトから問い合わせが来ない」とまとめると、集客会社は集客を、制作会社はリニューアルを提案します。発注先の得意分野によって答えが変わる状態です。

自社側でボトルネックを一段だけでも絞れていれば、提案を比較しやすくなります。

分解する数字は、事業によって変える

先ほどの式は、すべての会社へそのまま当てはめるものではありません。顧客が購入するまでの工程に合わせて変えます。

問い合わせ型のBtoBサービス

売上 = サイト流入 × 問い合わせ率 × 商談化率 × 受注率 × 単価

問い合わせから受注まで数ヶ月かかる場合、今月の流入と今月の売上を直接比べてはいけません。案件が発生した月、商談になった月、受注した月をつなげて見ます。

営業が見込み客を開拓する事業

売上 = 接触企業数 × 返信率 × 商談化率 × 受注率 × 単価

この場合、Webサイトへのアクセスが増えても売上へ直結するとは限りません。営業先の選定、接触方法、商談後の提案がボトルネックになることがあります。

EC

売上 = 訪問数 × 購入率 × 注文単価

さらに新規と既存、商品カテゴリ、流入経路へ分けます。売上全体では問題が見えなくても、「新規顧客の購入率だけが下がった」「広告経由の注文単価だけが低い」と分かれば、確認する範囲を絞れます。

式を複雑にすることが目的ではありません。違う原因で動く数字を分けることが目的です。

比較する前に、計測の定義を揃える

数字を分解しても、各部門が違うものを数えていれば判断できません。

よくあるのは、マーケティング部門の「問い合わせ数」に営業目的の連絡や採用応募が含まれ、営業部門の「リード数」では除外されているケースです。同じ名称でも件数が一致しません。

最低限、次の定義を揃えます。

  • リードに含める行動
  • 対象外とする問い合わせ
  • 商談になったと判断する条件
  • 受注日と売上計上日の違い
  • 新規顧客と既存顧客の区分
  • コンバージョンをユーザー単位で数えるか、行動回数で数えるか

GA4では設定により、同じ人の行動を複数件として数えることがあります。詳しくはコンバージョン改善の前に確認することにまとめました。

数字は3つの比較で見る

分解した数字を並べただけでは、良いか悪いかを判断できません。最低限、次の3つと比較します。

1. 目標との差

事業計画を達成するために必要な数字と比べます。目標売上から必要な受注数、商談数、リード数を逆算しておけば、どの段階の不足が最も大きいかが分かります。

業界平均だけを目標にすると、自社の単価や粗利、成約までの期間が反映されません。まず自社の事業計画から置くべきです。

2. 過去との差

前月だけでなく、季節性があるなら前年同月、検討期間が長いなら3ヶ月や6ヶ月の移動平均と比べます。

広告やアクセス解析の数字は、集計する時点や計測設定によって変わることがあります。比較期間で定義が揃っているかも確認してください。広告レポートで直近のコンバージョンが少なく見える理由は、広告運用レポートの見方で解説しています。

3. セグメント間の差

全体平均だけでなく、顧客層、商品、流入経路、ページ、担当者などに分けます。

全体の受注率が20%でも、既存顧客からの紹介は50%、広告経由は5%かもしれません。この2つを平均した20%を改善しようとしても、具体的な打ち手は出ません。

ただし、データが少ない状態で細かく分けすぎると、偶然の差を課題と誤認します。月の商談が5件しかないなら、1件の増減で受注率が20ポイント動きます。この場合は期間を延ばすか、数字だけでなく案件内容を一件ずつ確認します。

数字が少ない場合は、案件を一件ずつ見る

中小企業や新規事業では、分析に十分な件数がないことも珍しくありません。その場合、データが溜まるまで待つ必要はありません。

直近の受注、失注、問い合わせを、それぞれ5〜10件ずつ確認します。

  • どんな会社・人だったか
  • 何をきっかけに知ったか
  • 最初に相談された課題は何か
  • 比較した選択肢は何か
  • 何が決め手になったか
  • どの時点で進まなくなったか
  • 失注理由は事実か、営業担当者の推測か

数字が少なくても、同じ理由が繰り返し出ていれば仮説になります。たとえば失注案件の多くで「導入後の運用体制が分からない」と言われているなら、価格を下げる前に、運用方法の説明が不足していないかを確認できます。

ここでも、いきなり導入資料を作り直すのではありません。商談録やメールを確認し、顧客へ聞き、仮説が正しいかを確かめます。

動かせるボトルネックを一つ選ぶ

目標との差が最も大きい数字が、必ず最優先とは限りません。

たとえば認知が不足していても、改善に1年かかる施策しかなく、3ヶ月後に資金上の期限が来るなら、それだけに集中することはできません。反対に、問い合わせフォームの不具合で送信できない状態なら、影響範囲が小さく見えても即日直すべきです。

候補を次の観点で比較します。

観点 確認すること
事業への影響 この数字が動くと売上や粗利がどれだけ変わるか
根拠の確度 原因を示すデータや顧客の声があるか
変更可能性 自社が動かせる範囲か
時間 効果の確認までにどのくらいかかるか
費用・工数 外部費用だけでなく、社内の作業時間を確保できるか
前提条件 計測、サイト、商品、営業体制などが先に必要ではないか

この比較方法は、別記事として予定している「マーケティング施策の優先順位」で採点表まで詳しく扱います。

BtoB SaaSで、集客ではなくサイトを直した例

私たちが関わったBtoB SaaSでは、月間問い合わせ数を約8.5件から約20件へ増やしました。期間は約5ヶ月で、広告費は使っていません。

この事例で重要なのは「サイト改善が優れている」ということではありません。すでにサイトへの流入があり、問い合わせにつながっていないことを確認できたため、集客よりサイトを優先したという点です。

アクセス解析で離脱箇所を確認し、訴求を絞り、導線とCTAを改善しました。流入が不足している状態では、CVRを改善しても問い合わせ数の増加には上限があります。

成果は施策名だけを見ても再現できません。「サイト改善で2.4倍になった」ではなく、次の順番で判断したことに意味があります。

  1. 問い合わせ不足を確認する
  2. 流入と問い合わせ率に分ける
  3. 流入はあるため、問い合わせ率を優先する
  4. 離脱している段階を特定する
  5. その段階に対応する訴求・導線・CTAを変更する
  6. 問い合わせ数で効果を確認する

事例の詳細は広告費ゼロで問い合わせ数を2倍以上にしたサイト改善で紹介しています。

課題整理シート

会議では、次の7項目を一行で記録します。

項目 記入例
現象 新規売上が月間目標を20%下回っている
差がある指標 リード数が目標40件に対して24件
原因仮説 サービスページから問い合わせへの遷移が少ない
根拠 流入は前年並みだが、フォーム到達率が低下している
確認方法 流入経路別のフォーム到達率とページ離脱を確認する
確認期限・担当 8月31日まで・事業責任者と制作会社
仮説が正しかった場合の打ち手 ページ内の判断材料とフォーム導線を修正する

打ち手を最初から確定せず、「仮説が正しかった場合」として置くのがポイントです。確認した結果、流入している人が対象顧客ではなかったなら、導線ではなく集客や訴求を見直します。

まとめ

マーケティング課題の整理は、施策をたくさん挙げる作業ではありません。売上が生まれる工程を分け、目標と実績の差がどこにあるかを特定する作業です。

  • 「売上が伸びない」は課題ではなく、起きている現象
  • 売上を顧客数と単価、新規と既存へ分ける
  • BtoBの新規売上をリード、商談化率、受注率、単価へ分ける
  • リード不足を流入とコンバージョン率へ分ける
  • 目標、過去、セグメントの3つと比較する
  • 件数が少なければ、受注・失注・問い合わせを一件ずつ見る
  • 課題、原因仮説、確認方法、打ち手を別々に記録する
  • 事業への影響だけでなく、確度、時間、費用、前提条件から最初の一つを選ぶ

ボトルネックが特定できれば、広告、SEO、サイト改善、営業支援のどれを選ぶかは、その後の話になります。先に施策を決めないことが、遠回りに見えて最も短い進め方です。

次の記事: マーケティング戦略に必要な情報とデータ

課題を整理したら、次はその先の戦略判断に何の情報と数値データが必要かを確認します。第4記事では、事業の前提、顧客、市場・競合、自社、顧客獲得の工程について、何を、なぜ確認するのかを整理します。

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